※DGMのプレリの詳細が発表された頃に書いたもの
書いたはいいが割と否定的な内容だったので上げずに放置してた
マジックのメカニズムは大きく2つに分類される。付加的な決定と、相互関係のある決定だ。
付加的な決定とは、本来の効果として使うだけでなく、より強力な効果として使うことを選べる。これは「A」を「A+」や「A&B」として使える選択で、「A+」や「A&B」として使っても本来の効果である「A」は失われない。例として超過やキッカーが挙げられる。多くの場合は、大きな効果として使うには追加のコストが必要になる。細かいルールの相互作用を除けば、全ての付加的な決定はキッカーによって表現できる。
一方で相互関係のある決定とは、本来の効果として使うだけではなく、別の効果として使うことを選べる。これは「A」を「B」や「C」として使える選択で、「B」や「C」として使うと本来の効果である「A」は失われる。例として湧血や分割カードが挙げられる。多くの場合は、違う効果として使うには違うコストが必要になる。これも付加的な選択と同じように、全ての相互関係のある決定は分割カードによって表現できる。
また、相互関係のある決定の亜種として、コストは固定だが別の効果として使うことを選べるもの(例:魔除け)や、効果は固定だが別の方法で使うことを選べるもの(例:ピッチスペル)なども存在する。
かつてマローは「メカニズムは何でもキッカーか分割カードになる」と述べている。それは、上に挙げた2種類の決定に依るもので、彼はこれらを「オプションとチョイス」と呼んでいる。実際、キーワードに限らず全てのメカニズムは、この2種類のどちらかに(あるいは両方に)当てはまる。
さておき、今回語りたいのはデザインの本質なんてものではなく、この2種類の決定と多色テーマの親和性についてだ。
「フレンズ」という架空のセットを考えてみよう。それはその名の通り友好色の多色デッキを推奨しており、白,青,黒,赤,緑,白青,青黒,黒赤,赤緑,緑白のカードがそれぞれセットの1/10ずつ入っている。このセットで白青のデッキを組むと、カードプール全体の3/10が使えることになる。ところが、全てが単色カードで多色カードの存在しないセットでなら、白,青,黒,赤,緑がそれぞれ2/10ずつ入っているので、カードプール全体の4/10が使える。セットが多色を推奨することは、普段のセットよりもデッキに入れられるカードを減らしてしまう。
そしてもうひとつ、もしかしたら忘れているかもしれないが――多色カードには、マナシンボルは最低でも2つあり、それを唱えるためには2色以上のマナが必要だ。なにを当たり前のことかと思うかもしれないが、白青デッキの1/3が白青の多色カードだとすると、その1/3は白と青の両方の土地が揃ってからでないとプレイできない。多色カードは単色カードよりも色事故に陥りやすいのだ。セットが多色を推奨することは、普段のセットよりもカードをプレイできない色事故を増やしてしまう。
何が言いたいかと言うと、多色セットだからと言って何も考えずに多色カードを多く入れすぎてしまうと、デッキに入れられるカードを減らし、多色カードをプレイできない色事故を増やし、プレイヤーにとってのストレスの種をばら撒いてしまう。構築では多色土地を多量に採用することによってある程度は緩和されるかもしれないが、リミテッドでは特に顕著な問題になってしまうだろう。
そう、何も考えずに、ならばだ。
それらの問題を解決するために、古くより多色ブロックをサポートするためのツールとして活用されてきたのが、冒頭で挙げた2種類の決定だ。
インベイジョンブロックでは、上に挙げたキッカーと分割カードが両方登場した。初めてブロックが多色テーマとして制作される際に、2種類の決定それぞれの根本である2つのメカニズムが採用されたのは、決して偶然ではないだろう。キッカーは、追加コストとしてカードの色とは違う色を要求することで、1色でも使えるが2色で使うとより大きな効果を持つカードを作った。分割カードは、違う効果のカード2枚がそれぞれ違う色を要求しており、1色でも片方の効果を使えるが他の色を出せることでもう片方の効果を使えるカードを作った。その他にも、複数種類の基本土地をコントロールすることで強力になる版図(当時は所有地カード)や、起動型能力のコストとしてカードの色とは違う色を要求するサイクルもある。2種類の決定を支払う色に対して適用することによって、1色で使える単色カードでありながら、複数の色が使えることでより強力により便利になるカードが作られた。
ラヴニカブロックでも、そのようなカードがたくさんある。向上呪文と呼ばれるカードは、追加コストは持たないが、コストの不特定マナを特定の色マナで支払うことでより大きな効果を持つようになった。分割カードは色単位ではなくギルド単位になり、特定の3色を出せることでもう片方の効果を使えるようになった。このブロックでの特に大きな発展だったのは、2色のマナのどちらでも唱えられる混成カードだろう。同じ効果を2つの色のどちらでも使えるという新たな決定を可能にし、デッキに入れられるカードが減る問題を緩和した。加えるなら、それでも単色カードの上位互換にはならないようアンコモン以上はマナシンボルを増やして、特にギルド魔道士は両方の色を使う多色デッキでこそその力を十全に発揮できるようにしたのは見逃せない。
アラーラブロックにて、これらの決定は更に発展する。コストとして支払う色マナではなく、コントロールしているパーマネントの色を参照してより大きな効果を持つカードがあった。コストに通常の色マナと混成マナが両方入ったカードは、3色を推奨するアラーラにおいては2色カードよりもはるかに扱いやすくまるで単色カードのように働いた。圧倒するサイクルでは、唱えるコストよりも軽いはずのサイクリングコストをあえて重く多色にすることで、本来なら相互関係のある決定であるサイクリングを付加的な決定として扱った。しかしサイクリングの本当の働きは、そしてこのブロックでの最も大きな発展だったのは、もっと別の部分、これまで支払う色に対して適用していた相互関係のある決定を、色マナの確保にまで広げたことにある。サイクリングはカードを1枚引くだけの小さな効果だが、多色セットにおいては土地を引きやすくして色事故を緩和してくれる。もっと象徴的なのは、基本土地サイクリングや2つの土地サイクリングを持つカードであろう。これらにより、色マナが揃っていないときにはサイクリングで土地を探して、手札にある他の多色カードの色マナを確保するために使うことができた。これまでの決定は、1枚のカードをどう使うかというだけのものであったが、アラーラのサイクリングは、デッキ全体を動かすための潤滑油になった。
そしてようやく今日の本題だ。
ラヴニカへの回帰ブロック、新ラヴニカブロックでは。
何も無い。いや、本当に全く何も無いわけではない。魔鍵は素晴らしいもので、序盤は色マナを供給する潤滑油でありながら、色マナの揃った中盤以降はこれ自身が戦力になれる。各ギルド各レアリティ1枚ずつの混成カードがあるし、各ギルド1枚の起動型能力のコストとして違う色を要求するサイクルもある。そして、――それだけだ。新ラヴニカブロックでは、2種類の決定をどう発展させてくれるかと楽しみにしていたが、これまでの多色ブロックで見せてくれたような発展は、残念ながら確認できない。
ドラゴンの迷路では、ブースターパックの基本土地のスロットにはギルド門やショックランドが入るというではないか。多色環境に対してのアプローチとして新しく楽そうではあるものの、逆に、そうでもしなければまともな多色環境が作れなかったのではないのかと心配になる。それ自体を否定するつもりは無いが、それを免罪符にしてこれまでの多色テーマに対する2種類の決定を放棄してもらいたくはない。
今回の新ラヴニカブロックを締めくくるドラゴンの迷路では、多色テーマに対する2種類の決定の新たな発展を見せてもらいたいものである。
書いたはいいが割と否定的な内容だったので上げずに放置してた
マジックのメカニズムは大きく2つに分類される。付加的な決定と、相互関係のある決定だ。
付加的な決定とは、本来の効果として使うだけでなく、より強力な効果として使うことを選べる。これは「A」を「A+」や「A&B」として使える選択で、「A+」や「A&B」として使っても本来の効果である「A」は失われない。例として超過やキッカーが挙げられる。多くの場合は、大きな効果として使うには追加のコストが必要になる。細かいルールの相互作用を除けば、全ての付加的な決定はキッカーによって表現できる。
一方で相互関係のある決定とは、本来の効果として使うだけではなく、別の効果として使うことを選べる。これは「A」を「B」や「C」として使える選択で、「B」や「C」として使うと本来の効果である「A」は失われる。例として湧血や分割カードが挙げられる。多くの場合は、違う効果として使うには違うコストが必要になる。これも付加的な選択と同じように、全ての相互関係のある決定は分割カードによって表現できる。
また、相互関係のある決定の亜種として、コストは固定だが別の効果として使うことを選べるもの(例:魔除け)や、効果は固定だが別の方法で使うことを選べるもの(例:ピッチスペル)なども存在する。
かつてマローは「メカニズムは何でもキッカーか分割カードになる」と述べている。それは、上に挙げた2種類の決定に依るもので、彼はこれらを「オプションとチョイス」と呼んでいる。実際、キーワードに限らず全てのメカニズムは、この2種類のどちらかに(あるいは両方に)当てはまる。
さておき、今回語りたいのはデザインの本質なんてものではなく、この2種類の決定と多色テーマの親和性についてだ。
「フレンズ」という架空のセットを考えてみよう。それはその名の通り友好色の多色デッキを推奨しており、白,青,黒,赤,緑,白青,青黒,黒赤,赤緑,緑白のカードがそれぞれセットの1/10ずつ入っている。このセットで白青のデッキを組むと、カードプール全体の3/10が使えることになる。ところが、全てが単色カードで多色カードの存在しないセットでなら、白,青,黒,赤,緑がそれぞれ2/10ずつ入っているので、カードプール全体の4/10が使える。セットが多色を推奨することは、普段のセットよりもデッキに入れられるカードを減らしてしまう。
そしてもうひとつ、もしかしたら忘れているかもしれないが――多色カードには、マナシンボルは最低でも2つあり、それを唱えるためには2色以上のマナが必要だ。なにを当たり前のことかと思うかもしれないが、白青デッキの1/3が白青の多色カードだとすると、その1/3は白と青の両方の土地が揃ってからでないとプレイできない。多色カードは単色カードよりも色事故に陥りやすいのだ。セットが多色を推奨することは、普段のセットよりもカードをプレイできない色事故を増やしてしまう。
何が言いたいかと言うと、多色セットだからと言って何も考えずに多色カードを多く入れすぎてしまうと、デッキに入れられるカードを減らし、多色カードをプレイできない色事故を増やし、プレイヤーにとってのストレスの種をばら撒いてしまう。構築では多色土地を多量に採用することによってある程度は緩和されるかもしれないが、リミテッドでは特に顕著な問題になってしまうだろう。
そう、何も考えずに、ならばだ。
それらの問題を解決するために、古くより多色ブロックをサポートするためのツールとして活用されてきたのが、冒頭で挙げた2種類の決定だ。
インベイジョンブロックでは、上に挙げたキッカーと分割カードが両方登場した。初めてブロックが多色テーマとして制作される際に、2種類の決定それぞれの根本である2つのメカニズムが採用されたのは、決して偶然ではないだろう。キッカーは、追加コストとしてカードの色とは違う色を要求することで、1色でも使えるが2色で使うとより大きな効果を持つカードを作った。分割カードは、違う効果のカード2枚がそれぞれ違う色を要求しており、1色でも片方の効果を使えるが他の色を出せることでもう片方の効果を使えるカードを作った。その他にも、複数種類の基本土地をコントロールすることで強力になる版図(当時は所有地カード)や、起動型能力のコストとしてカードの色とは違う色を要求するサイクルもある。2種類の決定を支払う色に対して適用することによって、1色で使える単色カードでありながら、複数の色が使えることでより強力により便利になるカードが作られた。
ラヴニカブロックでも、そのようなカードがたくさんある。向上呪文と呼ばれるカードは、追加コストは持たないが、コストの不特定マナを特定の色マナで支払うことでより大きな効果を持つようになった。分割カードは色単位ではなくギルド単位になり、特定の3色を出せることでもう片方の効果を使えるようになった。このブロックでの特に大きな発展だったのは、2色のマナのどちらでも唱えられる混成カードだろう。同じ効果を2つの色のどちらでも使えるという新たな決定を可能にし、デッキに入れられるカードが減る問題を緩和した。加えるなら、それでも単色カードの上位互換にはならないようアンコモン以上はマナシンボルを増やして、特にギルド魔道士は両方の色を使う多色デッキでこそその力を十全に発揮できるようにしたのは見逃せない。
アラーラブロックにて、これらの決定は更に発展する。コストとして支払う色マナではなく、コントロールしているパーマネントの色を参照してより大きな効果を持つカードがあった。コストに通常の色マナと混成マナが両方入ったカードは、3色を推奨するアラーラにおいては2色カードよりもはるかに扱いやすくまるで単色カードのように働いた。圧倒するサイクルでは、唱えるコストよりも軽いはずのサイクリングコストをあえて重く多色にすることで、本来なら相互関係のある決定であるサイクリングを付加的な決定として扱った。しかしサイクリングの本当の働きは、そしてこのブロックでの最も大きな発展だったのは、もっと別の部分、これまで支払う色に対して適用していた相互関係のある決定を、色マナの確保にまで広げたことにある。サイクリングはカードを1枚引くだけの小さな効果だが、多色セットにおいては土地を引きやすくして色事故を緩和してくれる。もっと象徴的なのは、基本土地サイクリングや2つの土地サイクリングを持つカードであろう。これらにより、色マナが揃っていないときにはサイクリングで土地を探して、手札にある他の多色カードの色マナを確保するために使うことができた。これまでの決定は、1枚のカードをどう使うかというだけのものであったが、アラーラのサイクリングは、デッキ全体を動かすための潤滑油になった。
そしてようやく今日の本題だ。
ラヴニカへの回帰ブロック、新ラヴニカブロックでは。
何も無い。いや、本当に全く何も無いわけではない。魔鍵は素晴らしいもので、序盤は色マナを供給する潤滑油でありながら、色マナの揃った中盤以降はこれ自身が戦力になれる。各ギルド各レアリティ1枚ずつの混成カードがあるし、各ギルド1枚の起動型能力のコストとして違う色を要求するサイクルもある。そして、――それだけだ。新ラヴニカブロックでは、2種類の決定をどう発展させてくれるかと楽しみにしていたが、これまでの多色ブロックで見せてくれたような発展は、残念ながら確認できない。
ドラゴンの迷路では、ブースターパックの基本土地のスロットにはギルド門やショックランドが入るというではないか。多色環境に対してのアプローチとして新しく楽そうではあるものの、逆に、そうでもしなければまともな多色環境が作れなかったのではないのかと心配になる。それ自体を否定するつもりは無いが、それを免罪符にしてこれまでの多色テーマに対する2種類の決定を放棄してもらいたくはない。
今回の新ラヴニカブロックを締めくくるドラゴンの迷路では、多色テーマに対する2種類の決定の新たな発展を見せてもらいたいものである。
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